卵
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ナレーター:
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村上 めぐみ
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著者:
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夢野 久作
このコンテンツについて
……三太郎様へ……露子より
露子さんと三太郎君が初めて顔を見合ったのは、今年の春の初めでした。それは隣家に越してきた露子さんが、二階の窓からこちらを見下ろす視線と、勉強していた三太郎くんの視線とが、一瞬スレ違っただけでした。それから後、二人は毎日のように顔を合わせておりました。お互いに恋を感じていることを知りながらも、ウッカリ視線でも合うと、慌てて眼をそらして、家の中へ引っ込んでしまうのでした。そうしてトウトウニッコリし合う機会が一度もないうちに、別れなくてはならなくなったらしいのです。
三太郎君は、それから毎晩その卵を抱いて寝ました。三太郎君は卵が可愛ゆくなりました。こわさないようにソッと抱いて寝るのが、この上もない楽しみになって来ました。
そのうちに卵は次第に変化して来るようでした。中から聞こえる寝息と思っていた物音が、夜の更けるにつれて高まって、しまいにはウンウンという唸り声かと思われるようになりました。
三太郎君は気味がわるくなって来ました……
夢野久作
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。1889年(明治22年)1月4日-1936年(昭和11年)3月11日。他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い。またホラー的な作品もある。(c)2017 Pan Rolling
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「許して……許して下さあい。僕……僕は……お母さんが……姉さんが家(うち)に居るんですから……」
「ウハハハハ……云う事を聴かねえとコレだぞ」
「致します致します。何でも致します。……すぐに……すぐに船から下して下さい。殺さないで下さい」
「知ってやがったか。ワハハハハハハハ」
昭和二年頃の十月の末だったっけ……
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「おはよう……」と声をかけたがは見向きもしない。何しろ船長仲間でも指折の変人だからね。何か一心に考えていたらしい。俺は右手に提げた黄色い、四角い紙包を船長の鼻の先にブラ下げてキリキリと回転さした。
「御註文のチベット紅茶です。やッと探し出したんです」
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五郎さんはもう夢中になって開いて見ると、それは思った通りお菓子で、ドロップ、ミンツ、キャラメル、チョコレート、ウエファース、ワッフル、ドーナツ、スポンジ、ローリング、ボンボン、そのほかいろいろ、ある事ある事……。一箱ペロリと食べてしまった五郎さんは、そのまま何喰わぬ顔で蒲団にもぐり込んでしまいました。
やがて何だか恐ろしく苦しくなって来ましたので、どうしたのかと眼を開いて見ますと、最前喰べたお菓子連中が、めいめい赤や青や紫や黄色や又は金銀の着物を着て、男や女の役者姿になって大勢いならんでいるのがはっきりと見えました。
夢野久作
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。1889年(明治22年)1月4日-1936年(昭和11年)3月11日。他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大
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五郎さんはもう夢中になって開いて見ると、それは思った通りお菓子で、ドロップ、ミンツ、キャラメル、チョコレート、ウエファース、ワッフル、ドーナツ、スポンジ、ローリング、ボンボン、そのほかいろいろ、ある事ある事……。一箱ペロリと食べてしまった五郎さんは、そのまま何喰わぬ顔で蒲団にもぐり込んでしまいました。
やがて何だか恐ろしく苦しくなって来ましたので、どうしたのかと眼を開いて見ますと、最前喰べたお菓子連中が、めいめい赤や青や紫や黄色や又は金銀の着物を着て、男や女の役者姿になって大勢いならんでいるのがはっきりと見えました。
夢野久作
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。1889年(明治22年)1月4日-1936年(昭和11年)3月11日。他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大
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