
狼森と笊森、盗森
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🎙️ 宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」朗読 – 森は語り、森は黙る。人と自然が出会う、忘れられた時間の物語。
岩手山の北、小岩井農場のあたりには、黒く深い松の森が四つ、南から北へと並んでいます。名は、狼森、笊森、黒坂森、盗森。いずれも不思議な響きを持つ名前ですが、それぞれがどのようにして生まれ、そう呼ばれるようになったのか――そのすべてを知っている者がただひとりいると、黒坂森のまんなかにある大きな岩が語った、と物語の語り手である「わたくし」は言います。
この作品は、そうして語られた昔話を、「わたくし」が聞き手となって綴ったかたちで進んでいきます。
物語の舞台は、岩手山の噴火のあと、一面に灰が降り積もり、そののちに草や木が芽吹き、やがて森が形づくられていくという壮大な自然の営みから始まります。やがて四人の百姓が山を越えてこの地に現れ、畑を開き、家を建て、家族とともに新しい生活を始めます。森に向かって「ここで暮らしてもよいか」と声をかけると、森が「いいぞ」と応える。自然と人とが、まるで古くからの知己のように心を通わせる場面が印象的に描かれます。
ところが、日々が過ぎ、冬を越え、生活がようやく安定しはじめたころ、ある朝、子どもたちのうち四人が忽然と姿を消します。必死に探し回った人々が見たのは、森の奥、焚き火のまわりで栗や茸を焼いている子どもたち、そしてそのまわりを、くるくると歌いながら踊る九匹の狼たちでした。「火はどろどろぱちぱち、栗はころころぱちぱち」と繰り返される歌は、幻想的でどこか懐かしく、読む者の心に深く残ります。
宮沢賢治が描く自然は、単なる背景ではありません。それは時に語りかけ、時に試し、時に包み込む、生きた存在として物語に息づいています。この作品でも、森は声を持ち、意志を持ち、そこに暮らす人々と向き合っています。賢治ならではの神秘性と、農民たちの素朴で力強い営みとが重なり合い、深い余韻を残す作品となっています。
耳を澄ませれば、森の声が聞こえてくるかもしれません。風の音、葉のこすれるささやき、そして遠くから響いてくるあの歌。静かに語られるこの物語に、どうぞ心をゆだねてみてください。